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【VOICEs】3年後、5年後を見据えて挑戦する日々

【役員インタビュー】 社員の成長が企業の成長につながる。それを支える環境を作ることが僕の役目、というサイオステクノロジー代表取締役社長の喜多伸夫に、サイオスがこれから向かうステージについて尋ねました。

ピープル2015年7月 9日

― 今年、2015年5月に、東京証券取引所第2部に市場を変更しました。この節目にあらためて創業以来の思いを聞かせてください。

2004年に東証マザーズに上場してから10年が経過したわけですが、その間、サイオスを取り巻く環境は大きく変化しました。とはいえ、テクノロジーを通じて、世の中の発展に貢献したい、世界に通用する革新的なプロダクトを開発したい、という想いは一貫して変わっていません。革新的なテクノロジー―、ソフトウェアも「テクノロジー」の一つですが、それを介して、ユーザー、開発者、社会に夢を与えたいと思って日々仕事をしています。

― 1990年代に、渡米先で出会ったLinuxを通じて、オープンソースソフトウェア(OSS)の考え方に衝撃を受けたのが創業のきっかけと聞きましたが。

その時からほぼ18年が経ちました。ただ、日本の企業ユーザーを見渡すとまだ、十分にOSSが認知され、ビジネスに活用されているとは言えません。OSSに対する理解も深まってきましたが、顧客企業の経営力を伸ばす上で、まだまだビジネスチャンスが眠っている状態です。その意味では、OSSのサポートを含め、やらなければならないことがたくさんあります。前述の東証2部への市場変更についてもサイオスにとってはあくまで一つの通過点に過ぎません。

― OSSユーザーのサポートに力を入れる一方で、サイオスならではのプロダクトやサービスへの研究開発投資にも積極的ですね。その狙いとは。

先述したように革新的なプロダクトを開発したい、という夢があるからですが、3年後、5年後の成長に必要なビジネスの柱を作ることが目的です。すでにサイオスには、市場で先行する多くの独自プロダクトやサービスがあり、顧客の支持を得ています。ただし、新たなライバルも現われます。いまある事業の柱をしっかり育てながらも、新たな市場を開拓する挑戦をやめてしまえば、企業の成長はそこで止まってしまいます。いまから種をまいて芽を出さなければ、3年後に会社がなくなるかもしれません。BtoCやBtoBを問わず、やり遂げるという強い決意で取り組んでいます。

― 組織的には、第1事業部と第2事業部の二本立てにし、既存事業を前者が担い、後者が新規プロダクトやサービスを開発する、というロールを明確にされました。

組織体制は、近年、思い切って変えました。既存事業、新規事業いずれにおいても、ある程度、現場に自由度と権限を与えて、意思決定のスピードを速めるようにしています。市場の変化に対応するためです。会社の規模が大きくなっている中、ある意味、創業期の少数精鋭のプロジェクトチームに近い、原点回帰といえる組織づくりです。

― その中で、トップとしての役割は。

自分自身を客観的に見る、というのは難しいことです。例えば、ゴルフのスイングもそうですね。自分のフォームが崩れていることになかなか気づきにくいものです。プロジェクトを俯瞰するのも同様です。社員間で情報共有を図りながら、お互いに現在の立ち位置を確認できるような環境づくりに努めています。ところで、スリーエム社の付箋紙(ポストイット)が、開発に失敗した接着剤から生まれたことは有名ですね。当初の計画通りに進んでいない開発プロジェクトでも、見方を変えると思いがけない方向にビジネスとして向かっていくことがあります。僕の役割は、複数のプロジェクトを見ながら、足りないところがあればそこを補い、見方を変えるヒントを提供することでもあります。

― 触媒的な役割も担うわけですね。とはいえ、挑戦が行き詰ると「そんなのはうまくいくはずがない」「誰もやっていない」。そういう否定的な見方をする人も出てきませんか。

新しいことをやる以上、失敗はつきものです。駄目だからといちいち落ち込んだり悔やんだりしても、費やした時間や金銭的な投資は戻ってきません。

失敗したと思ったら、それはそれで認め、もう一度チャレンジすればいいのです。切り替えや割り切りも大事です。チャレンジは、一回や二回ではうまく行かないものです。計画通りに進めようとすると、壁にぶつかってゴツン。それならこっちでと思ったら、またゴツン。

そんな風に、あっちこっちでゴンゴンぶつかり跳ね返され、八方塞がりの中、もがいているうちに思いがけないところで視界がぱっと開けてくることがあります。最初に描いたビジョンとは違うけれど、えっ、と思うような"Something new"が出てくる可能性があります。

― 壁を越えようという執念も大切ですね。

僕の中に、危機感はいつもありますね。ただ、そういう中から、イノベーションのヒントや新たな顧客やパートナーとの出会いが生まれます。

― 喜多社長もこれまで仕事で壁にぶつかって、右に行けばいいのか、左に行けばいいのか、迷うことが何度もあったのでは。

そういう時は一人で抱え込まずに、周りの人にも相談してみることも大事です。違う見方もありますから。でも、相談した上で、最後にどうするか。それは自分で決めなければなりません。経営者として、決める勇気と行動力が必要です。

― これからの展望は。

2015年4月に、キーポート・ソリューションズがサイオスグループに加わり、高い技術力を備えた人材が仲間になりました。それによって、新たなチャレンジが可能になると考えています。社員数は、この15年ほどの間に、5倍以上になりました。新しい市場を切り拓くために、社員の力を結集していきたいと思っています。

温めている新しい事業の構想はいろいろあります。サイオスは、米国のシリコンバレーをはじめ、欧州、アジアにも市場を展開していますが、世界に影響を与えられる企業を目指して、これからも攻め続けたいですね。まだ見たことのない世界を一緒に創ろう、カッコいいこと、楽しいことをやろうよ、と僕自身もワクワクしながら仕事に取り組んでいます。

■プロフィール

喜多伸夫

サイオステクノロジー 代表取締役社長

1993年〜98年、大学卒業後に勤めた商社の一員として米国で半導体設計ソフトウェアなどの市場開拓を担当。そこでLinuxに出会った。無償で、誰でも使えるオープンソースソフトウェア。それまで有料のソフトウェアが当たり前だったところへ現れたOSSおよびそれを取り巻くコミュニティの存在に市場を塗り替えるゲームチェンジャーとしての可能性を直観した。それをもとに新たなビジネスを創造しようと創業に至る。それから18年。現在は、2016年度のグループ連結売上高100億円達成を全社の目標に掲げる中、3年先、5年先のグローバル市場への展開を見据えて次の布石を打とうとしている。

■インタビューを終えて

「ビジネスでは失敗しても構わない。チャレンジしないことが最もいけない」――と喜多は言います。

その言葉から、女子W杯で日本勢が活躍を見せたサッカーなどの競技を想像しました。フィールドで戦っている選手たちは、ホイッスルが鳴ってひとたびゲームが始まると、誰からの指示も受けず、自分で考え、行動しなければなりません。監督もコーチも、フィールドに立つ選手一人ひとりのその一挙手一投足まで、事細かく都度指示することはできないからです。

一方、選手のほうも、時々刻々と変わるフィールドの状況を、テレビカメラの映像のように、リアルタイムに鳥瞰することは困難です。自分自身のプレースタイルやフォームの崩れに気づくことさえ難しい。そんな逆境にもかかわらず、限られた情報を手がかりに一人ひとりが、瞬時の判断、決断を迫られます。

そのため、選手それぞれが抱く目標や、やりたいことの足並みが揃っていなければ、攻めも守りもちぐはぐになってしまいます。戦果を挙げるには、常日頃からチームメンバー全員で試合の目的やゴールシーンのイメージが共有されていることが大切でしょう。各メンバーのポジションは異なっても、やるべきことは何か、周囲の動き・状況を互いに確かめながら、主体的に自分で「決める」ことが重要となります。そうした挑戦の経験を重ね、一人前に成長していくことはビジネスにも通じるはず。インタビューを通じて、そのような思いを持ちました。

(聞き手:sios.jp編集部 柏崎、2015年6月)