You just start it! 自分たちの手で未来を作ろう
2015年3月11日、日本OSS推進フォーラム主催の「OSSシンポジウム2015」が開催されました。パネルディスカッションにはサイオステクノロジー代表取締役社長 喜多伸夫も登壇し、ビジネス戦略にOSSを活用する本質的な意義について述べました。
テクノロジー2015年5月11日
Linux FoudationのJim Zemulin氏が登壇
シンポジウムのオープニングを飾ったのは、Linux Foundation マネージメントチーム エグゼクティブ ディレクターJim Zemlin氏です。基調講演ではまず、OSSが市場に与えているインパクトを説明しました。
「ニューヨーク、シカゴ、ロンドン、東京。今日、世界の主要な証券取引所を支える取引システムの約90%が、Linux上で稼働しています。IoTの基盤を支えるのも多数のOSSです。マイクロソフトのオープンソース化に向けた戦略転換も話題になりました。一連の動きは、紛れもなくOSSがもたらしたものです」(Zemlin氏)
OSSだけでなく、ソーシャルコーディングなど社外のリソースをうまく活用して新しい製品・サービスの研究開発を進める企業が注目されています。エコシステムをビジネスに活かす企業として、Zemlin氏は、OSS調査専任チームを立ち上げたインテルを挙げました。
とはいえ、OSSのさらなる普及・進展の前にはまだ多くの課題があります。
Zemlin氏は「OSS関連の知財管理」「信頼できるOSS開発者やメンテナーの継続的な育成」「セキュリティ強化に向けたたゆまぬ改善」、そしてNTPd(Network Time Protocol daemon)のようなシステムの動作に欠かせないプログラムを「開発・メンテナンスする個々人の貢献に対する支援の必要性」の4つを主に挙げました。
「課題解決にLinux Foundationも力を入れています。OSSを利用する皆さん一人ひとりの力も貸してください。You just start it!」とZemlin氏はコミュニティに対する日本からの積極的な貢献に期待を寄せました。
OSSに対する日米経営者の意識の違い
続けて、経済産業省 商務情報政策局 情報処理振興課課長の野口聡氏は、日本企業における攻めのIT経営の切り替えが重要と指摘しました。「米国では社内に優秀なITエンジニアを多数雇用し、OSSのビジネスでの活用も積極的です。一方、日本のユーザー企業は事業に必要なシステムの開発や運用を外部のベンダーに多く依存する傾向があり、OSSは「コスト削減のツール」と見られがちです。経営層の意識を変える取り組みが必要です」と課題を提示。攻めのIT経営への舵の切り替えが重要と強調しました。
IT部門は「攻めの部門」
シンポジウム後半、「日本のIT産業の成長に向けた取り組みとは?」と題するパネルディスカッションでは弊社代表取締役社長の喜多がパネリストの一人として参加し、意見を述べました。
「今日3月11日は、東日本大震災の発生からちょうど4年目です。しかし、わが国では災害の教訓が抜本的な対策に十分生かされていません。いまだ多くの課題を山積みにしたまま4年が経過してしまいました。未来は自分たちの手で作っていかなければなりません。IT業界にも同じことが言えます」と喜多は、官も民も問わず、自ら当事者意識を持って積極的な一歩踏み出すことが業界、そしてITと切り離せない世の中全体の仕組みを変えることにつながると指摘しました。
「企画、開発、リリース、ソフトウェア開発の総合的なスキルを見ると、米国の人材が日本の人材レベルの上回っていることを残念ながら認めざるを得ません」(喜多)。特にそれを感じたのは、サイオスが先ごろ発表した機械学習技術(米国特許申請中)を搭載したITオペレーション分析ツール「SIOS iQ」の開発場面でした。
「開発の中心は米国人のエンジニアやプロジェクトマネージャーです。アイディアを具現化する情熱が彼らからひしひしと伝わってくるのを感じました。一方、日本企業の現場部門の方々と接すると、ITあるいはOSSを、部門コストの削減の道具と捉えがちです。あくまでそれはOSSのひとつのメリットにすぎません。海外の動向を含めて視野を広げ、企業のビジョンを実現するための手段であること、そしてIT部門とは、現場と一体でビジョンを実現する『攻めの部門』であること。それを日本企業のマネジメント層、そして現場部門が認識し、オープンソースを活用した創造的なアクションに転じていただきたいと思います」と述べました。
日本も政府調達でIT人材活用を
「一方で、"日本版シリコンバレー"を日本に作ろうという試みもなかなか成功していません。日本には日本の市場や風土にあった形でのIT人材の育成や市場活性化策があるはずです。まずは日本政府自らがシステム調達の場面で優れたIT人材を率先垂範して活用してはいかがでしょう。政府がトップダウンでシステム再構築のアプローチや調達におけるロールモデルを示す。それが民間のユーザー企業にもたらす影響は非常に大きいと考えます」(喜多)
本シンポジウムの他のパネルディスカッションや講演では、米国では、スタートアップを支援する仕組みが整っている点、また、「スピードが生命線」のビジネスの中で、OSSを活用することが必須になりつつある点が報告されました。さらに、OSSのメンテナンスやコード開発にコミットすることが米国の人材市場では非常にポジティブに捉えられているといいます。
政府、民間、コミュニティに参加する一人ひとりが、市場を活性化していくために、OSSのエコシステムを育て活用する。それが未来を変えるのではないか、そう考えさせるシンポジウムでした。
⇒ 2015年11月17日開催 北東アジアOSS推進フォーラム 基調講演レポート記事はこちら