OSSを軸としたエコシステムの一翼を担う存在に〔前編〕
【OSSのプロフェッショナルたち #2】OSSを利用する企業へのサポートや情報発信を手がける「サイオスOSSよろず相談室」。その企画・運営を担当するOSS事業企画部の村田龍洋(むらた たつひろ)と、朴元哲(ぱく うぉんちょる)にOSSの魅力や今後の活動で目指すことを聞きました。
ピープル2017年5月18日
身近なところでOSSの積極利用が始まった
― ネットクラフト社が2017年4月に発表した調査結果 によると、全世界では18億のWebサイトが公開されており、アクティブなWebサーバーソフトウェアの上位を占めるApache(46.3%)とNginx(19.6%)を合わせて6割以上をOSSが支えています。新規に公開されたWebサーバーのみを取り上げると、この比率以上に多くのOSSが利用されているようですが、このようにOSSの利用が伸びる背景にある要因は何でしょうか? 村田さんの見解を教えてください。
村田:OSSはWebサーバーだけに限らず、APサーバー、DBサーバー、運用管理、ビッグデータの分散処理、分析やAI、検索、セキュリティなどあらゆるジャンルに存在しています。OSSの開発は個人ベースで進められているプロジェクトも多くありますが、近年、ビッグデータやAIの領域で企業が自社の技術をOSSとして公開して市場での優位性を確保しようと動いています。このように豊富な資金や人材を有する企業が開発・提供する側に回り、OSSがもたらすイノベーションをビジネスに活用する流れが顕在化していると強く感じますね。
「OSSの先進的な技術を探求することは、エンジニアにとっての醍醐味。特に目利きをしたOSSが利用されるときは嬉しい」と、OSS事業企画部の村田龍洋
また、利用する側も新しい技術を自社のビジネスに取り入れることで、他社との差別化を図るなどのアドバンテージが得られます。さらに需要が高いOSSは開発コミュニティの活動も活発になり、短期間でのバージョンアップなどを通じて品質や使いやすさが向上することで利用が後押しされます。私個人も元々OSSを活用してITインフラの構築・運用を支援するエンジニアでしたが、さまざまなOSSの先進的な技術に巡り合うことはとても面白い体験でした。その経験が今に活きていると思います。
― 朴さんにとってはOSSの魅力はどんなところにありますか?
朴: OSSの開発コミュニティはさまざまな人が支えているのだということを実感できることです。OSSを通じて、そのような人たちに出会えることが、私にとってOSSの魅力ですね。
今年3月10日~11日に東京・明星大学 日野キャンパスで行われたオープンソースカンファレンス(OSC) 2017 Tokyo/Springではサイオスもブースを出展しました。私はOSCに初めて参加しましたが、ブースに訪れた人との交流は刺激を受けました。また、さまざまなOSSコミュニティが出展するブースを回り、セッションを聞いて楽しかったです。
「OSSのユーザーや開発コミュニティを支えるさまざま人たちとの交流が楽しみ」と、OSS事業企画部の朴元哲。OSSよろず相談室のユーザー会であるSOY倶楽部でもユーザー間の交流をさらに活性化したいと考えています
村田:企業のビジネスを支えるITインフラでは、OSSを単体のみで利用する、ということはあまりなく、さまざまなOSSや、または商用ソフトウェアと組み合わせて利用されるケースが一般的です。適材適所で組み合わせるとさまざまな価値を作り出せますからね。OSCのようなイベントはそのようなOSSの可能性を感じることができる貴重な場なのだと思います。
ユーザーにとって最適なOSSを見極める
― OSSの組み合わせには様々なパターンがありますが、いま注目しているOSSはありますか?
村田:一例ですが、WebサーバーのNginxとIT自動化フレームワークのAnsible、そしてDockerですね。これらを組み合わせることで開発と運用を一体化したDevOps時代に沿った運用管理の効率化につながると考えます(参考記事:「オープンソースカンファレンス 2017 Tokyo/Springで講演&出展」)。新しいサービスを短期間に開発したり、変化するニーズに応じて拡張・変更するには、従来の密結合でモノリス(一枚岩)のシステム開発と硬直的な運用では現場に大きな負担や混乱が生じます。そこで、技術的にはWebサービスAPIのような疎結合のインターフェースを介して適切なサービスや機能を必要に応じて柔軟に組み合わせ、同時にITインフラの運用も標準化・自動化を目指すアプローチが注目されています。Nginxの持つリバースプロキシ機能と運用の自動化が容易にできるAnsibleの組み合わせはそのきっかけになると考えています。
― さまざまな開発コミュニティやベンダーが提供するソフトウェアを組み合わせる場合、相性の良し悪しがありますよね。企業で使うことを想定した場合に不安はありませんか?
村田:そのような不安を払拭するために、実務に欠かせない情報をお客様のニーズに合わせて提供するのが「サイオス OSSよろず相談室」です。主要な80種類以上のOSSに関するさまざまな事例に基づく知見を提供しています。ソフトウェアのベターな組み合わせはやはり存在します。サイオスでは実際に組み合わせた検証成果に基づく提案も行っています。さらにサイオス自身がOSSユーザーとして経験を積んできて得られた知見やバグに関する情報などを、コミュニティ側にできる限りフィードバックすることで各種OSSの品質向上にも貢献しています。
朴: OSSを活用したいけれども、組み合わせや万一のサポートを含めて不安があったり、専門人材を雇用するだけの社内リソースがなかったりなどの理由で躊躇される企業が少なくありません。そのような声をお伝えすると「実はうちもそうなんだよ」と共感されるお客様が多くいらっしゃいます。OSSよろず相談室を利用いただくことで、リソースを自社のコア領域にもっと集中させることが可能になり、ビジネスの成長と効率化につながると考えています。
― OSSよろず相談室では、どのようなジャンルのサポートが得意なのでしょうか?
村田:最も得意とするのは、Webベースで開発された業務システムのサポートです。Apache、Tomcat、PostgreSQL等によるシステムです。これはサイオスの長年の経験に培われたものですね。実際、「この分野はサイオスに任せたい」「より付加価値の高い利用に関する提案がほしい」と要望されるケースが高い割合を占めます。
OSSプロジェクトの動向をキャッチアップするために
― ユーザーの業種業態などに特徴はありますか?
朴:メーカー、通信、流通、エネルギーなど非常に幅広い業種にわたっていますので、すべての業種業態にお応えしています。「OSSよろず相談室」では単純なサーバーの保守サポートではなく、一企業あるいは一部門のバックエンドのサポートを一手に引き受ける形態に特徴があります。私たちはお客様の求めるもの、情報システムの環境などをしっかり把握したうえで、最適な回答を差し上げています。また、ユーザー企業だけでなく、OSSを用いたシステムの設計・構築に強いSI企業がカバーできない領域をサイオスが補完するケースもあります。
― 新しいOSSもどんどん出てくる一方、バージョンアップなど製品サポートが停止し、EOL(エンド・オブ・ライフ)を迎えたOSSも出てきます。キャッチアップのためにアンテナを張っているのもかなり大変な気もしますが?
村田:はい。情報のキャッチアップには個々のエンジニアの高度な知見と、チームワークが求められます。また関係するエンジニアやコミュニティに近い情報ソースを掴むように努めています。たとえば、Nginxの商用版OSSであるNGINX Plusはサイオスがサポートしていますが、代理店契約のある米国Nginx社からは商用版、コミュニティ版、両方の最新情報を得ています。
朴:村田さんの目が充血していることがあれば、夜中に海の向こうの相手とチャットが始まって寝不足気味になった翌日ということです(笑)。
村田: OSSの先進的な技術を探求することは、エンジニアにとっての醍醐味でもあります。目利きをしたOSSが利用されるときは嬉しいですしね。
⇒〔後編へ続きます〕 OSSを軸としたエコシステムの一翼を担う存在に〔後編〕
記事の関連情報
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