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Developers Summit 2022 対談セッション OSSの文化を未来に伝える

IT技術者やクリエイターの祭典Developers Summit(主催:株式会社翔泳社CodeZine編集部)にて、サイオステクノロジー上席執行役員 黒坂肇とFRAME00 CTO Aggre氏が、OSSの過去・現在・未来について語りました。

テクノロジー2022年2月25日

変化する「オープンソースソフトウェアの意義」と「オープンソースソフトウェアで生きる」ために必要なこと

30年で大きく飛躍したOSS

公開されたソースコードを自由に再利用、拡張、再配布可能なオープンソースソフトウェア(OSS)。1990年代は主にホビーの対象と見られていたOSSですが、この30年で企業のビジネスや私たちの暮らしを支えるうえで欠かせない存在へと勇躍しました。対談ではその背景を紐解くところから始まりました。

OSSがビジネスで普及・進展した理由の1つは、OSSを組み合わせ、活用することで他社との大きな差別化にならないコモディティな領域の業務およびシステムを効率的に構築し、より高い付加価値を生み出す領域に経営リソースをシフト、集中できるようになったことです。

「OSSのオープンな開発手法やコミュニティ活動を戦略的に生かすビジネスモデルが世界的に拡大しています。たとえば自動運転技術を早期に進展させ、市場シェアを獲得するため企業の枠組みを超えてソースコードを公開・共有し、開発を加速するビジネスはその典型といえるでしょう」(黒坂)

Aggre氏はOSSを作るデベロッパーの1人として、開発する人、利用する人にはオープンソースならではの安心感があると指摘します。
「たとえば、あるソフトウェアがどのようなユーザーのログを取得してどこに送信しているのか、そこにバグはないか。さまざまな疑問は開示されたコードを確かめることで解消することができます。安心して開発、利用できることがプロプライエタリなソフトウェアとの大きな違いです」(Aggre氏)

ただ、そのOSSの開発における持続性が問われています。

「縁の下の力持ち」が抱える悩み

最初はホビー感覚で開発したライブラリなどが、いつしか数億ダウンロードに達するほど人気を集めたり、多くのソフトウェアに共通するライブラリに供されたりすることがあります。

「しかし、Githubに公開されたリポジトリのコアメンテナーが実質1人しかおらず、せいぜい2、3人がコミットしているくらいという小規模なコミュニティが大半のように見受けられます。そうしたメンバーが病気に罹ったり、経済的に行き詰まったりしたときにライブラリに見つかった脆弱性などのメンテナンスを誰も保証してくれないことになります」(Aggre氏)

OSSのリリースノートに名前が載るのは名誉なことですが、それだけで開発者が生活をすべてOSSの開発やメンテナンスに捧げる(フルコミットする)のは現実的には困難です。仕事をこなしながら合間を縫って開発していることも多く、やむを得ず、開発者が収益を得るために資金集めやマネタイズに腐心したりするなど、本来の開発以外に力を入れることもありますが、不慣れな活動に疲れ燃え尽きてしまう人も後を絶ちません。

たしかに、OSSでもエンタープライズレベルで採用されるような著名なコミュニティでは商用ライセンスを用意する、オープンコアで有償PaaSを提供する、ファンドレイズする、など工夫を凝らして必要な費用を確保する動きも近年目立ちます。とはいえ、それは星の数ほどあるOSSの中で頭角を表した、ごく一握りです。
「OSSは多くのライブラリの組み合わせによって実現していますがその大半は、時刻計算ライブラリや状態管理ライブラリなど小さなライブラリやスクリプトです。建築物におけるネジやドアの蝶つがいのように重要でありながら表立っては目立たない存在ですが建築物と同じく、それらのどれかが欠ければOSSのエコシステムは大きく揺らいでしまいます」(Aggre氏)

開発者を支援する手段として「寄付」も欠かせないものです。ただ支援する人が安定的に潤沢な資金を提供し続けてくれるか定かでありません。寄付に関する各国の税制、文化や考え方の違いにも左右されます。

貢献とインセンティブが結びつく自律分散型組織(DAO)

こうしたなかで、Aggre氏がCTOを務めるFRAME00(フレームダブルオー)では、新たな選択肢としてDev Protocolの開発と実装、拡充に力を注いでいます。
 
Dev Protocolは、開発者やクリエイターの主体および活動をブロックチェーン(イーサリアム)上に証明する仕組みです。各主体は株式会社におけるストックオプションのように、トークンという分割可能な所有権を発行し、貢献度に応じて分与することができます。支援する人々はOSSを資産運用対象(アセット)と捉えてその資産価値の向上によるメリットを配当や利息のようにトークンを通じて享受することができます。
 
ソフトウェアを構成するライブラリの依存ツリー構造に基づいて、ソフトウェアの開発にコミットするメンバー一人ひとりに収益が行き渡る経済的インセンティブを提供し、プロジェクトの行く末をガバナンスする民主的な合意形成の仕組みを備えた、自律分散型組織(DAO:Decentralized Autonomous Organization)の実現が、FRAME00が目指すアイデアです。
 
ちなみに、OSSを利用する際のハードルとしてかねてよりライセンス体系の乱立がありますが、ライセンスが複雑化する背景には、開発者の利益を保護する、という側面があります。これも開発者と支援者が持続的に活動を継続しやすいDev Protocolの利用によって根本的に解決できる可能性が注目されています。

OSSの火を絶やさぬためのアクション

DAOは、ある共通の目的を持つ組織に関わる人たち、たとえばコードを書く人やデザインする人など各々が組織に対して、自分なりの利益を追求する活動を通じて貢献することで成長する組織です。目的に賛同する人がより多く関わるほどDAOにおける共通の目的が達成しやすくなります。

「DAOにおける自律や分散というのは、システムとしての信頼性を担保するために、ある特定の主体に依存せずに、冗長性を高めた分散的な運営体制を意味します。万が一、企業が倒産したり国が制度を変えたりすると、OSSの開発や提供するサービスが突然停止し、持続可能性が損なわれる可能性がありますよね。OSSの開発者自身も『楽しいのだから自分が我慢すればよい』と孤立せずに、自分以外に開発をする人を増やし、プロジェクトやソフトウェアのオーナーシップそのものを冗長化するアクションを起こしてほしいと思います」(Aggre氏)

黒坂は最後に次のように問いかけました。
「池でみんなが魚を好きなだけ釣っていたら、ほとんど魚がいなくなってしまった――、というように、今から30年後に残ったOSSがLinuxだけでした、という世界はさみしいですよね。OSSを開発している人たちが、自分達が便利だと思って作ってきたこと、それが利用されて嬉しかったこと、楽しかったことを次の世代に伝えながら生きていくために何ができるか、皆さんも一緒に考えてみませんか」

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