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「つくること」と「支えること」が持続する未来のトークンエコノミー【前編】

分散型プロトコルDev Protocolを開発したFRAME00(フレームダブルオー)のCEO(最高経営責任者)である原麻由美さん、CTO(最高技術責任者)のAggreさんをお招きし、サイオステクノロジー上席執行役員 黒坂肇とともに持続的なエコシステムの実現について語りました。

ピープル2021年7月16日

OSSの持続的な開発に求められること

―― OSS(Open Source Software)は今日の産業や社会に欠くことのできない役割を果たしています。特に商業OSSを提供する企業の価値は全世界で2.6兆円規模という推計がされるほど大きく成長を遂げています。一方で、OSS開発プロジェクトの約8割が1年以内に終了しているという指摘もあります。なぜ開発が持続しないのでしょうか。

黒坂 オープンソースの黎明期には、開発コミュニティで貢献していることが技術者本人にとって今以上に高いモチベーションになっていたと思います。たとえば「この人はLinuxカーネルのメンテナーだ」と周囲の技術者からも認められ、一目置かれることはエンジニアにとって名誉なことでした。今日では数多くのOSSがひしめいている状況です。それだけOSSが身近になってきた、とも言えるのですが「いいね!」をたくさんもらってもそれだけでは食べていけません。安定した収入源が確保されていなければ貢献するほど生活が苦しくなってしまう、という切ない現実もあります。
一方で、大手IT企業など国内外の資本が戦略的にOSS開発に積極的に投資し、イノベーションを生み出すエコシステムを作ろうと画策する動きが一般的になりました。OSSの黎明期とはだいぶ様相が変わってきましたね。

Aggre OSS開発のチャレンジの敷居は以前より下がっています。OSSはすべて大企業による開発だけではなく、いまでもエンジニア個人の小さなプログラムから始まることが多いですが、欧米を含む海外ではそれをベースに起業する、事業化を考える傾向が強いですね。日本では個人がホビーとして始めても、事業化することまではあまり意識していないことが多いのかもしれません。

黒坂 日本人によるOSSのサブプロジェクトなど、重要な取り組みも数多くあるのですが日本発のOSSの数は欧米など諸外国から見ると少ないのは、開発側のスタンスにも違いがあるかなと思います。米国などでは参加者がジョイン(結合)という形で、ものづくりのコラボレーションが進んでいく傾向にあります。日本人はどちらかというと液体文化。混ざることで安心を得たい、楽しみたいというメンタリティが強いのかもしれません。

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FRAME00, Inc. CTO Aggre氏、CEO 原麻由美氏

―― OSSはオープンソースであっても、タダ(無価値)という意味ではありません。ただ、いまなお「オープンであるものを提供しているから対価をもらってはいけない」「OSSは無料だからビジネスにならない」という誤解は根強いですが、いかがでしょう。

Aggre そうですね。ただ、OSSのビジネスモデルには、オープンコアや商用版サポートなどがあります。バグ・バウンティ(ソフトウェアのバグを見つけると報酬が企業などから得られる)の取り組みも一部見受けられるなど、多様な取り組みがすでになされています。

黒坂 Red Hat Linuxが登場し始めた頃、無償提供されていたときには日本の企業からはほとんど相手にされませんでした。しかし、まったく同じものに「19万8千円」といった価格を付けたらバタバタと売れ始めた。無償に対する偏見、商習慣や調達上のルールなどが、OSSが浸透しない背景にあったように思います。米国ではビル・ゲイツのように成功者が篤志家となり私財をさまざまなプロジェクトに寄付することが珍しくありません。寄付税制など日米の法制度の違いもあるために単純に真似できないかもしれませんが、懸命に頑張る人を経済的に支援しよう、という姿勢や文化は素晴らしいし、日本でも見習いたいですね。

1600以上のOSSがリストアップされる「Stakes.Social」

―― FRAME00では、OSS開発者を支援するスポンサープラットフォーム「Stakes.Social」を提供しています。どういうものか概要を教えてください。

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Stakes.Socialの画面

 Stakes.Socialには2021年4月時点で1600以上のOSSプロジェクト*1が登録されています。スポンサーは5億6千万円を預けて、開発者の方の資金調達額は累計2億1千万円の資金を得ています。
OSSの開発者は、GitHubに公開したプロジェクトをStakes.Social上に登録します。支援者であるスポンサーは、応援したいプロジェクトに対して、自分が保有するDEVトークン*2を預けます。DEVトークンを開発者に預けることをステーキング(Staking)*3と呼び、銀行に預金することに相当します。

一方、支援者が預けたDEVトークンには、預けた量と期間に応じて報酬が付与されます。銀行でいうところの利息のようなものです。この報酬は支援者に付与されるだけではなく開発者にも付与されます。銀行に預けたお金に付く利息を開発者と支援者で分け合う、というイメージです。開発者はこちらを開発資金に充当しながら開発を続けることが可能になります。支援者もDEVトークンを預けている限り報酬を得られるので長期的な支援につながります。また、複数の開発者がOSS開発プロジェクトに参加している場合、開発者同士でDEVトークンを分け合うこともできます。

黒坂 トークンの分配を開発者自身の手で行えるのがユニークですね。

Aggre はい。ただし特定のプロジェクトに支援(ステーキング)が集中すると、開発者がすぐにDEVトークンを引き出せない仕組みになっているため、より多くのプロジェクトに支援が行き渡ることが理想です。また、プロジェクトが増えるとDEVトークンの発行量が増え、支援が増えると発行量が減るメカニズムを取り込んでいます。DEVトークンをステーキングすることで市場に流通するDEVトークンの数が減り、希少性が高まります。これがDEVトークンの価値上昇要因*4となります。複数の要因の組み合わせにより平衡しつつも、DEVトークンの価値が緩やかに上昇していくことで、支援のバランスとDEVトークンの価値の安定化を図り、開発者と支援者がDEVトークンを利用する経済的なメリットを得ることを想定しています。(後編へ続く

*本記事の内容は2021年4月インタビュー時点の内容に基づきます。

*1 OSSプロジェクト
プロジェクトの例としては、イーサリアムのスマートコントラクト言語Vyperのプロジェクトなどがある。

*2 DEVトークン
トークンとは、価値を表すメディア(媒体)で証券やチケットなどの金銭的価値を有するものに相当する。デジタルトークンはネットワーク上で取り扱われる電子的なトークンのこと。DEVトークンはイーサリアムのERC20規格に準拠したトークン。トークンの価値を安定させる上で役立つ焼却(Burn、誰も利用できないアカウントに送金することで使えなくなる状態を作る)などの各種機能を有する。

*3 ステーキング(Staking)
DEVトークンをステーキングするには、まず暗号資産取引所に自分の口座を開設し、入金した日本円をETH(イーサリアム)に交換し、さらにUNISWAP等のサービスを用いてDEVトークンを入手する。そして、Stakes.Socialのサイトにアクセスし、応援したいOSSを選択する。ステーキングの際に必要なのは手数料(gas代)のみである。OSSを法定通貨に戻すには、この逆の手順を踏む。

*4 DEVトークンの価値上昇要因
DEVトークンが上昇する要因には、そのほか、DEVトークン自体の焼却により希少性が高まる影響などがある。